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あらゆる子どもたちのためになる教育:民族の多様性を尊重

長期展望調査

長期展望は、アオテアロア ニュージーランドに住む人々のより良い未来を実現するうえで障害となる問題の特定・研究に役立ち、中・長期的なトレンドやリスク、機会に関する情報を提供し、適切な対策を検討することができます。

Education Review Office (教育審議会) はMinistry for Ethnic Communities (民族社会省) と協力して、民族的背景の異なる生徒とそのWhānauの教育・学習体験を理解することに努めています。

「Whānau」とは、これらの生徒の保護者や親族を指し、生徒との緊密な関係やつながりの重要性を意味する。

 

民族の多様性とは?

多様性には様々な形態があり、民族・文化・言語・性別・性自認・宗教などもその中に含まれます。本調査では、民族多様性とそれに関連した言語・文化・宗教の違いに着目しました。民族とは、人々が帰属意識を持つ、あるいは自己のアイデンティティを見出す民族集団として定義されます。今回の報告書では、アフリカ系・アジア系・ラテンアメリカ系・中東系のコミュニティが対象です。「エスニック/民族」とは、中東・ラテンアメリカ・欧州大陸・アジア・アフリカのいずれかの民族を出自とする人たちの集団を指す。 アンケート調査の結果と入手可能なデータにより、今回の報告書には欧州大陸を出自とする生徒は含まれていない。

対象となった生徒

エスニックコミュニティ出身の生徒とひと口に言っても、その背景 (民族・宗教・文化・在住歴・家庭など) は千差万別です。これらの生徒の3分の2以上はニュージーランド生まれですが、その多くは多民族的な背景を持ち、エスニックコミュニティの半数以上で複数の言語が使用されています。

国内の学校における民族多様性とその変化

急速に多様化が進むアオテアロア ニュージーランド

全国各地で多様化が進んでいますが、都市部ではその傾向が特に顕著です。今後は幅広い民族的背景を持つ生徒が増えるでしょう。2043年までに生徒の4人に1人以上 (26%) がアジア系、約20人に1人 (3.6%) が中東系・ラテンアメリカ系・アフリカ系 (MELAA) になると予測されています。オークランドでは、生徒の5人に2人以上 (43%) がアジア系になるでしょう。

図1>: 全国の生徒 (5〜19歳) の中でMELAA系またはアジア系が占める割合

ニュージーランド統計局、国勢調査 (2013年・2018年)、民族集団 (2013年・2018年);全国民族人口予測:2018年 (基準) – 2043年、平均予測 (2043年)

アジア系

Asian

中東・ラテンアメリカ・アフリカ系

MELAA (Middle Eastern, Latin American and African)

図2:アジア系を自認する生徒 (5〜19歳) の地域別割合

出所:ニュージーランド統計局、2018年国勢調査、民族集団 (2018年) および 2018年地方人口予測‑基準 (2043年) 平均予測 (2043年)

The Asian population is expected to increase in schools across the country

全国の学校でアジア系生徒が増加する見込み

Auckland

オークランド

Bay of Plenty

ベイ・オブ・プレンティ

Waikato

ワイカト

Wellington

ウェリントン

Nelson

ネルソン

Canterbury

カンタベリー

Southland

サウスランド

民族的背景の異なる生徒とそのWhānauの教育現場での体験

1. エスニックコミュニティ出身の生徒の多くが学校教育で優れた成果をあげている。

全国共通学力試験NCEA (National Certificate of Educational Achievement) を見ると、アジア系の生徒は全国平均以上に合格・高成績を収め、MELAA系およびアジア系は共に高い確率で大学入学資格の取得、大学進学を果たしています。 しかし、エスニックコミュニティによって大きな開きがあるだけでなく、どのコミュニティにも学業不振児が存在します。

図3:民族別に見たNCEAレベル2の高成績 (MeritおよびExcellence) 取得者の割合:2021年

図3:民族別に見たNCEAレベル2の高成績 (MeritおよびExcellence) 取得者の割合:2021年

出典:NZQA、レベル1・2・3の民族別のNCEA達成度、2021年

2. エスニックコミュニティ出身の生徒が日常的に人種差別的ないじめを体験しても、学校側が真剣に取り合わないことが多い。

アンケート調査実施前1カ月以内に人種差別的ないじめを体験したと答えた生徒は5人に1人に上り、半数以上が民族の違いによるいじめを目撃したことがあると回答しています。生徒とそのWhānauは、学校が人種差別的ないじめを特定し、より良い対策を講じる必要があると答えています。学校が人種差別的ないじめを真剣に捉えていないと回答した生徒は、3分の1近くに上りました。

図4:過去30日以内に人種差別的ないじめを体験したことがある生徒

図4:過去30日以内に人種差別的ないじめを体験したことがある生徒

出所:ERO生徒調査、2022年

「インド料理は手で食べるので、学校へ持って行くのは気が引けます。別のインド人の友だちは、お弁当をからかわれ続けて学校で仲間外れにされたため、好きでもないサンドイッチを持って行くようになりましたが、その時にはもう手遅れでした」(生徒)

3. エスニックコミュニティ出身の生徒は、社会や学校の一員として受け入れられていないように感じることがしばしばある。

これらの生徒のほぼ5人に1人は、ふだんから自分がよそ者のように感じ、3人に1人は毎週/毎日のように学校で孤独を感じると回答しました。また、ほぼ5人に1人が学校で自分の民族を隠さなければならない、あるいは民族が違うために仲間外れにされていると感じています。特に、MELAA系生徒の幸福度が極めて低いことが明らかになりました。

「自分の文化に触れ合う機会は、カルチャーウィークだけだと思います」(生徒)

4. 学校教育は必ずしも生徒やWhānauの期待を反映していない。

国家の変化に伴い、地域社会の教育に対する期待も変化しています。現時点における学校教育は、生徒やそのWhānauの期待を反映しているとは限りません。エスニックコミュニティ出身の生徒の3人に1人、そのWhānauの10人に4人が、学習内容が物足りないと感じています。母語教育の奨励を希望するWhānauは3分の2近くにも上りますが、ヒンディー語 (国内の使用人口第4位) をはじめとする11言語はNCEA教科に含まれていません。また、一部のWhānauは学校で宗教について教えるべきだと考えています。

5. エスニックコミュニティのWhānauが学校とのやりとりで直面する壁。

エスニックコミュニティのWhānauは子どもの教育に積極的に関わりたいと考え、学校行事の中でも特に熱心に懇談会へ出席しますが、学習に関する情報がわかりにくい、あるいは不足していると感じています。また、理事会でも少数派であり、アジア系がわずかに2%を占める程度です。

6. エスニックコミュニティ出身の生徒の多くは高等教育機関へ進学するが、進路の選択肢が明確でなく、場合によっては教員の先入観によって選択の幅を狭められている。

これらの生徒は、全国平均よりも高い確率で高等教育機関に進学していますが、一部では選択の幅が狭められています。エスニックコミュニティ出身の中・高生の4分の1以上が、民族に対する先入観に基づいた進路指導を受けたと回答しています。また、生徒もそのWhānauもNCEAが分かりにくいと答えています。また、5分の1の生徒は、教科や進路の選択について積極的な指導がないと感じています。

「この民族にはこういう志向があると決めてかかることは極めて狭量であり、生徒一人ひとりの希望を可能にするものではありません」 (地域の青少年指導員)

学校はエスニックコミュニティ出身の生徒とWhānauのニーズをいかに満たしているか。

1. エスニックコミュニティのニーズを満たすため、一部の学校ではすでに革新的な慣行が導入されている。

EROの学校視察によれば、多くの学校がエスニックコミュニティに働きかけ、生徒の文化的背景や学習のニーズを理解することに努め、学習内容や指導方法を変えています。しかし、そうした変化につきものの様々な問題に直面している学校や、新しい方法を導入していない学校、成果を測りあぐねている学校があることも分かりました。

2. 生徒の文化的背景まで含め、教員がどこまで生徒を理解しているかが学校体験のカギとなるが、一朝一夕にできるものではない。

教員たちの異文化理解は人口動態変化の波に追いついておらず、教員の民族構成も生徒の民族性を反映していません。たとえば、アジア系の教員数は全体のわずか5%です。生徒とそのWhānauは、自分たちの文化に対する教員の知識・認識不足を懸念しています。教員自身も、生徒の文化的・学習的なニーズに対してごく限られた知識しかないと答え、半数以上の教員がエスニックコミュニティとうまく連携する自信がないと認めています。また、担任に誤った発音で名前を呼ばれたことがある生徒は半数にも及びました。

将来の教育への影響

全国の学校で多様化が進む今こそ、教育の内容や手法を見直す絶好の機会と言えます。そこで我が国の教育の将来を見据え、5つの主要な問題点を特定しました。

1. すべての学校に民族多様性の高まりに対応する能力が必要である。

オークランドに限らず、全国各地で民族多様化が進み、若年人口では特にその傾向が顕著です。学校における民族多様化の動きは、文化や言語の異なる生徒たちの増加に反映されています。すべての学校がエスニックコミュニティ出身の生徒のニーズを満たし、学業と学校生活の両面で個々の可能性を伸ばせるようにする必要があります。

2. すべての学校に人種差別に取り組む能力が必要である。

我が国では、あまりにも多くのエスニックコミュニティ出身の生徒が人種差別に基づくいじめや偏見を体験しており、問題を提起しても真剣に対応してもらえないことがあります。この事態を改善しなければなりません。すべての学校に人種差別の予防と解決に取り組む能力が必要です。

3. エスニックコミュニティ出身の生徒により良い教育を提供する必要がある。

これらの生徒たちの学習体験と、エスニックコミュニティが求めるものについて理解を深める必要があります。学校の種類や場所、科目も検討項目に入ります。現職教員の文化的能力を高め、将来に向けて、民族背景の異なる教員の育成に努めなければなりません。

4. エスニックコミュニティ出身の生徒の教育体験と成果について理解を深め、当事者の声をもっと取り上げる。

2043年には、全国の生徒の4分の1がエスニックコミュニティ出身者になると予測されているからこそ、積極的に各コミュニティの意見を取り入れていくべきです。教育に関するデータ収集や協議、意思決定の中で、エスニックコミュニティ出身の生徒やそのWhānauの姿は見えてきません。彼らの体験と成果 (それぞれの民族集団による違いに着目) を理解し、教育に対するエスニックコミュニティの声をもっと取り上げていく必要があります。

5. 我が国の未来を見据え、エスニックコミュニティ出身の生徒やWhānauのためになる教育が必要。

エスニックコミュニティ出身の生徒とそのWhānauは教育に多くを期待すると共に自分たちの言語の維持を重視しています。これらの期待に応え、民族・文化背景の異なるすべての生徒のためになる教育を実現することは、我が国の教育制度のみならず労働人口や文化、外交の強化にもつながります。

今後の重点分野

エスニックコミュニティ出身の生徒の多くは学業で優れた成果をあげていますが、日常的な人種差別や孤立感、自分たちの文化に対する人々の無理解といった問題を克服しなければなりません。国の繁栄を考えればこの事態を改善すべきであり、次の5つの重点分野にその可能性が潜んでいます。

  1. 人種差別の撲滅:今後、人種差別対策への要求事項を強化し、人種差別の防止に努めない学校に対して生徒と保護者が問題提起できる明確な手段を策定します。また、人種差別の対象になりやすい集団に対する嫌がらせの防止に集中して取り組みます。
  2. 教育内容の改善:今後、国内のエスニックコミュニティとそこを出自とする生徒の期待を反映した学習内容への変更を視野に入れ、語学科目数や宗教教育をはじめ、授業でエスニックコミュニティの存在や成り立ちを可視化すること、学習内容のレベルを上げることなどが考えられます。
  3. 教え方 (教える人) の改善:これからの教員には、より多様な生徒のニーズを理解し、対応できる能力が必要になります。すべての現職教員を対象としたスキル開発はもとより、より多くのエスニックコミュニティ出身者が教員や補助教員となるための手立てが考えられます。
  4. 教育の場を変える (広げる):今後、エスニックコミュニティは、自分たちの期待に応える教育の場を模索していくことが考えられます。それぞれの価値観・特性・期待に沿った学校の設立や、コミュニティ向けの支援を拡充する手段がすでに存在しています。
  5. エスニックコミュニティの存在と意見の可視化に努める教育:将来を見据え、エスニックコミュニティ出身の生徒の動向に関する情報を徹底的に収集・追跡し、学校経営にそれぞれのコミュニティとその生徒たちの声を積極的に取り入れていく方法が考えられます。

結論

我が国の民族多様化は急速に進んでいます。教育制度がこの変化を受け入れ、順応していくことによって、エスニックコミュニティ出身の生徒とそのWhānauがより自由に可能性を伸ばしていけるようになります。2043年までに全生徒の4分の1がエスニックコミュニティ出身者になる未来図を考えたとき、彼らの教育に対する期待を理解することが極めて重要です。

多様性を受け入れ、あらゆる生徒のニーズを満たす教育が実現すれば、我が国の社会・経済・文化もさらに力強いものとなります。そして、様々なエスニックコミュニティの人々が住み・学び・働き・子育てをする場として、より魅力的な国になるでしょう。

本調査の全文:Education for all our Children: Embracing Diverse Ethnicities

本概要は次の言語でご覧いただけます:英語・アラビア語・中国語 (簡体字)・ヒンディー語・日本語・クメール語・韓国語・スペイン語・タガログ語・ベトナム語

ERO (教育審議会) の取り組み

様々なエスニックコミュニティ出身の生徒が、教育についてどう考えているかを理解するため、複数の方法で情報収集を行いました。

  • Whānau対象のアンケート調査 (回答者1,250名)、10カ国語で対応
  • 生徒 (558名) と教員 (263名) の調査
  • 全国各地8校の学校訪問
  • 13の地域集会/フォーカスグループ
  • コミュニティリーダー/回答者 (計12名) へのインタビュー
  • 意見書提出56äťś
  • 8校の管理職者とのオンライン・フォーカスグループ
  • 政府諸機関からの幅広いデータ

指針となった一般市民との意見交換

本調査はエスニックコミュニティ主導で実施されました。2022年3月、長期展望に関する意見交換依頼文を公開し、一般市民からの意見を求めました。同年11月には、寄せられた意見書の内容をまとめた報告書草案を発表し、地域集会を開いて改めて草案に対する意見書を受理しました。意見交換依頼文は7つの言語に翻訳されています:英語・マオリ語・アラビア語・中国語 (簡体字)・ヒンディー語・日本語・韓国語;報告書概要 (草案) と意見交換フェーズ2の質問状は、英語・アラビア語・中国語 (簡体字)・ヒンディー語・日本語・クメール語・韓国語・スペイン語・タガログ語・ベトナム語でご覧いただけます。

生徒や様々なエスニックコミュニティの保護者とWhānau、コミュニティリーダー、教員、学校運営の責任者をはじめ、本調査のためにインタビューや討論会、アンケート調査などを通じて貴重なご意見や体験談、洞察を共有してくださった全関係者へ謝意を表します。皆さまの体験が、本調査で得た学びの中核を成しています。ご多忙にもかかわらず、貴重なお時間を割いて真摯に体験談や知識を分かち合っていただいたことに重ねて御礼申し上げます。